昨日の自分を越えてゆけ

読書記録、ダンス、写真、雑多考察。日進月歩、なにか成長できる生活をしたい。

明日の天気は晴れ時々プーニーでしょう

恒川光太郎「滅びの園」

ホラーのようなファンタジーのような独特の世界観で物語を書く恒川さん。夫がこの作家さんを好きで、私も興味を持ったのだけど、読んだのは「夜市」「秋の牢獄」に次いでこれが3冊目。私のように「基本自宅療養だけど、そろそろなにかしたい」欲が出てきた人におすすめ。300ページをあっという間に読み終えられます。

 この本も夫に教えてもらって、どんな話なのかたずねたところ、「地球上に未知の生物プーニーが大量発生して、食べたら食べた人がプーニーになっちゃう話」とのこと・・・なんのこっちゃと。余計に興味をそそられて読むに至ったのであります。

  パワハラ上司、愛のない妻、しんどいことばかりの現実世界に嫌気が差していた鈴上が、絵本のように平和で幻想的な世界に迷い込む。そこで生活し、結婚し、娘も生まれて、幸せな生活を営む。しかしそれらはすべて鈴上を取り込んだ<未知なるもの>が見せる幻。一方、鈴上がいなくなった現実世界は滅亡の危機に瀕していた。<未知なるもの>とともに現れた不定形生物により多くの命が失われるなか、人々は奮起し、生きていくすべを模索していく。やがて鈴上のいる<想念の世界>と現実世界の関係が明らかになり、人々は、鈴上は、それぞれ選択を迫られる・・・。

 現実世界って嫌ですよね、仕事に追い詰められたり、勉強就職婚活いろんなものにせっつかれたり、それらをクリアしても職場内家庭内不和があったりして、いつになったら楽になれるのかと。そこから抜け出して、異世界で幸せに暮らせるのなら、そっちのほうが居心地がいいかもしれない。でも自分の生活は現実世界の大勢の死の上に成り立っている・・・なんて聞いたらぞっとしちゃう。異世界にすがる限り現実の地獄は終わらない。私が鈴上の立場だったら同じ事を選択しちゃうかなあ。だって理想的な世界を手放した先には、ここに来る前の苦しい生活が待っているんでしょう。現実世界から目を逸らして、目の前にいる妻と娘を守ろうとするのも、分からんでもない。

 あと人々の命を脅かす不定形生物が「プーニー」と呼ばれているのだけど、名前があざといよね。牛乳プリンがぷるぷる震えながら動くみたいなフォルムもあざとい。だけどやってることが全然可愛くないギャップが良かった。この点だけ捉えるなら夫の解説は非常に当を得ていたと思うのです。プーニーが侵食する世界を映像として見てみたい気もするが、すごくチープなものになってしまう気もする。活字ならではのギャップと怖さでした。

 恒川さんの作品の傾向なのか、細かい設定や時代背景等はさっ引いて、少ない字数で物語を構成する、あとは読者の頭の中で物語が完成していくような気がしています。それゆえに読みやすい。世界観スキーマが十分になければAIに恒川作品は読めないんじゃないかと思っています。分厚目の単行本でしたが、読みやすく話にも引き込まれて楽しめるのではないかと思います。是非。